KKAA Newsletter #90 (September 21, 2026) See in English 日本語で見る

#90 September 1, 2026


バワのラザニアとジントニック

久しぶりにスリランカに出張した。僕らが設計したスリランカ・ワカナの工事が佳境で、そのチェックが目的だった。夜、コロンボの空港について、そのまま工事現場に直行して、照明をチェックした。中庭のヤシの木の一本一本に、どう光が当たっているかまで、細かくチェックした。


夜中近くに、7年前(2019年)に僕らがリノベーションした、ベントータのクラブ・ヴィラに戻って、冷やしておいてもらった白ワインを飲んだ。クラブ・ヴィラはジェフリー・バワがもともと別荘としての依頼を受けてデザインしたもので、今はホテルとして使われているが、その別荘らしさ、すなわち家らしさが、他のバワの作品にない魅力である。その家らしいやさしさを壊さないように、風の通るこまやかな空間として、リノベーションを行なった。そのおかげで、自分の家に帰ってきたように、くつろぐことができた。


疲れ切ってぐっすり寝て、次の朝は、いつもの通り、スリランカの典型的な朝食であるホッパーというパンケーキのような物を焼いてもらった。しかし、その時悲しいニュースを聞いた。このホッパーを焼いていた、バワのお抱えのシェフだったカルナラトネさんが、去年86歳で亡くなってしまったというのである。

彼から、バワの食べ物や飲み物について、たくさんのエピソードを教えてもらった。バワはイタリア料理が好きで、カルナラトネさんは、雇われてすぐ、「イタリアに勉強に行って来い」と言われて、ぎっしりと身の詰まったラザニアの作り方を学んで、帰ってきたそうである。

Kuma at Club Villa, with the Sri Lankan architect Geoffrey Bawa’s personal chef (2019)

バワが食べ物にものすごくこだわる人間であったという事と、彼の建築がもっている、なんとも暖かい質感が、深くつながっていることは間違いがない。カルナラトネさんのラザニアは濃厚だが、対照的にバワの好んだジントニックはさわやかであった。スリランカ・ワカナの近くの山の中にある、彼自身が暮らしたルヌガンガの大きな庭の各所に、小さな呼び鐘が置いてあった。ジントニックが庭で飲みたくなると、バワはその鐘を鳴らしたそうである。

彼が亡くなった時、ルヌガンガで行なわれた葬式は夕方6時スタートだった。その時間に仕事を終えて、必ずジントニックを飲んでいたバワは、自分の葬式は、仕事の終わりのジントニックにちなんで、その時間から始めろというのが、バワの遺言だった。一日の仕事が終わった時のほっとした気持ちと、人生が終わった時の気持ちを重ねるというアイデアは素敵だし、とても哲学的だとも、僕は感じた。

そのバワの人生と少しだけ関わることのできた僕も、バワにちなんで、しっかりと食べる物、飲む物にこだわり、人間の生というものとしっかりとつながった建築を作っていこう! そういう決意を新たにした。それが最後のジントニックまでの、短い間だとしても。

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

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