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#90 September 8, 2026
バワのラザニアとジントニック
久しぶりにスリランカに出張した。僕らが設計したスリランカ・ワカナの工事が佳境で、そのチェックが目的だった。夜、コロンボの空港について、そのまま工事現場に直行して、照明をチェックした。中庭のヤシの木の一本一本に、どう光が当たっているかまで、細かくチェックした。

夜中近くに、7年前(2019年)に僕らがリノベーションした、ベントータのクラブ・ヴィラに戻って、冷やしておいてもらった白ワインを飲んだ。クラブ・ヴィラはジェフリー・バワがもともと別荘としての依頼を受けてデザインしたもので、今はホテルとして使われているが、その別荘らしさ、すなわち家らしさが、他のバワの作品にない魅力である。その家らしいやさしさを壊さないように、風の通るこまやかな空間として、リノベーションを行なった。そのおかげで、自分の家に帰ってきたように、くつろぐことができた。

疲れ切ってぐっすり寝て、次の朝は、いつもの通り、スリランカの典型的な朝食であるホッパーというパンケーキのような物を焼いてもらった。しかし、その時悲しいニュースを聞いた。このホッパーを焼いていた、バワのお抱えのシェフだったカルナラトネさんが、去年86歳で亡くなってしまったというのである。
彼から、バワの食べ物や飲み物について、たくさんのエピソードを教えてもらった。バワはイタリア料理が好きで、カルナラトネさんは、雇われてすぐ、「イタリアに勉強に行って来い」と言われて、ぎっしりと身の詰まったラザニアの作り方を学んで、帰ってきたそうである。
バワが食べ物にものすごくこだわる人間であったという事と、彼の建築がもっている、なんとも暖かい質感が、深くつながっていることは間違いがない。カルナラトネさんのラザニアは濃厚だが、対照的にバワの好んだジントニックはさわやかであった。スリランカ・ワカナの近くの山の中にある、彼自身が暮らしたルヌガンガの大きな庭の各所に、小さな呼び鐘が置いてあった。ジントニックが庭で飲みたくなると、バワはその鐘を鳴らしたそうである。
彼が亡くなった時、ルヌガンガで行なわれた葬式は夕方6時スタートだった。その時間に仕事を終えて、必ずジントニックを飲んでいたバワは、自分の葬式は、仕事の終わりのジントニックにちなんで、その時間から始めろというのが、バワの遺言だった。一日の仕事が終わった時のほっとした気持ちと、人生が終わった時の気持ちを重ねるというアイデアは素敵だし、とても哲学的だとも、僕は感じた。
そのバワの人生と少しだけ関わることのできた僕も、バワにちなんで、しっかりと食べる物、飲む物にこだわり、人間の生というものとしっかりとつながった建築を作っていこう! そういう決意を新たにした。それが最後のジントニックまでの、短い間だとしても。

ProjectsKithul-Ami
スリランカの建築家、ジェフリー・バワ生誕100周年を記念するパビリオンのデザインを依頼された。現地で伝統工芸品に多く使われるキトゥルという蔓植物を用いて、バワの建築の持つやわらかさに迫りたいと考え、またスリランカの自然を代表する植物を用いることによって、スリランカの自然と文化からバワという個性が生まれたことを具体的に示したいと考えた。 制作においては、スチールメッシュとキトゥルとを組み合わせること … Read MoreNews第34回〈現代世界の建築家〉展INTERNATIONAL 2026
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