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#52 April 3, 2023


坂本龍一

 坂本龍一さんと出会わなかったら、僕の人生はもっと、ずっとさびしいものだったと思う。正確に言えば、僕の近所に住んでいた、親友の生田アキが坂本さんと僕をつないでくれなかったら、すべては起きなかったとすら感じる。

 生田はピアノ、ドラムなどの楽器が揃っていた僕の家にやって来ては、セッションのまねごとをして遊んだ。彼は音楽の途に進んで坂本さん、山下洋輔、大貫妙子のマネージャーとなり、YMOのマネージメントとコーディネートも手掛け、坂本さん ― 僕らは「教授」と呼んでいた ― と僕をつなぎ、僕の人生は変化した。アートというものの力で、世界に到達できることを知った。

 しかし、1988年の夏、三人と空チャンでロサンゼルスで遊んだあと、生田だけがメキシコに飛んで、車ごと崖から落ちて、33才で亡くなってしまった。

 2015年には坂本さんから頼まれて、彼が理事長をつとめるmore treesのために木製のTSUMIKIをデザインして、これは、僕のプロダクトデザインの中で、一番気に入っている。20周年には、ブラジルのサンパウロに僕がデザインしたジャパンハウスのオープニングに坂本さんを呼んで、イビラプエラ公園の上の芝生の上に、10,000人を超える人が集って、坂本さんの一台のピアノの奏でる音楽に涙した。終わった後、ボサノバを聴くバーで、生田の思い出をサカナに飲んで、また涙した。今日も、また涙しかない。

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya