#55 December 31, 2023

　二人の死

　今年は、二人の大切な人を亡くした。11月19日に、母が９６才で亡くなり、３月２８日に坂本龍一さんが７１才で亡くなった。
　坂本さんとは、僕がニューヨークから戻ってきた1986年に出会った。僕の幼ななじみで、YMOのマネージャーをつとめた生田アキが僕らをあわせてくれた。「戦場のメリークリスマス」の封切りが1983年、「ラストエンペラー」が1987年で、生田は「ラストエンペラー」で、日本人医師役として出演した。坂本さんの音楽に、そしてその一挙手一投足に日本だけではなく世界中の若者が注目していた時期である。ロサンゼルスの街を彼と歩くと、すぐに人だかりができて、逃げるのが大変だった。生田アキは、僕らを引き合わせた後、1988年、天使がいってしまうように、メキシコのプエルタ・バヤルタの崖から車ごと転落して亡くなった。あまりに突然の、ありえない死だった。
　アジア人が、世界をひっくりかえせることを、僕は坂本さんから教わった。彼と一緒にいたことで、ある種の自信、確信を手にいれることができた。その意味で、彼とすごした時間がなければ、今の僕はなかったと思う。
　僕の母親もお洒落でやさしかったが、坂本さんのおかあ様も、帽子のデザインをしていたというというだけのことはあって、とびきりお洒落でやさしい人だった。
　母と坂本さんがいなくなってしまって、僕はひとりで、年の暮れの寒い中国を旅している。僕が、結局のところ何をしなければいけないかということを、二人の死が教えてくれた。