Kuma Word 1 (August 8, 2022) See in English 日本語で見る

Kuma Word 1 December 16, 2010


安養寺収蔵施設 (Adobe Museum) の仕事をしていて下関市の豊浦の人たち、特に川棚温泉の皆さんと仲良くなって、この仕事をすることになった。復習になるし、『自然な建築』(岩波新書)の反復になるから少し恐縮なのだが、安養寺プロジェクトは地元で奇妙な工法でできた「土の建築」を発見した日から、物語がはじまった。日本の土壁は土のかたまりではなく木や瓦でできた下地の上に土を左官で塗って作る。しかしなぜかこの地域では敷地の土で日干しレンガ (Adobe) を作って、それを積み重ねて土の塀や土蔵を作るのである。まったく日本離れしているが、雲南省などの中国の南方ではちょっと前までこれが民家の標準的な工法であった。なぜそれが日本の下関市、豊浦に突然あるのかは、いまだに謎で、地元でも結論がでていない。

この日本離れした構造性に驚き、そして興味をもって、その工法の復原を試みたのが安養寺収蔵施設 (2002) である。この作品は、不透明な壁を堂々と垂直に地面からたちあげている点で、KKAAの作品ではひとつのターニングポイントであった。

建築の構造性への関心が、この転機の動機かもしれない。一言でいってしまえば、KKAAのこの10年はコンクリートで直交フレームを構築してその上に化粧クラッディングをするという20世紀的方法にかわる方法を提案しているのである。お化粧ではなく、すべてを透明にしてさらけ出す方法を試み、また屋根を用いて、人工的な直交フレームにかわる、大地と建築との接続を試みてきた。要するに壁が嫌いなのであり、だらだらとした気の抜けた怠慢な壁が嫌いであり、なんとか、壁を消し去ろうとしてきたのである。

しかしその一方で「小さい建築」では、コンクリートの直交フレームというだらだらとした怠慢な構造システム」にかわる新しい構造性の実験を重ねてきた。「ウォーターブロック」「アルミブロック」がその系列に属する。この「小さい建築」の実験は構造性の系列と「大きい建築」とが合体した最??が「石の美術館」 (2000) であるが、石の美術館では新しい組積造の探究という構造的側面より、石の透明化という従来の透明化の方法が表にでていた感じがあるが、安養寺でははっきりと、「大きい建築」で構造性が表に出てきた気がする。

今回の「川棚の杜」は、安養寺の近くということもあって、最初から土っぽくて不透明な塊にしようと考えていた。コンサートホールというプログラムからも、不透明で音を遮断するものが適していると考えた。しかし、安養寺のように、小さなピースをひとつずつ積みあげていく形式の「構造性」では、この規模のものに新しい構造性を与えることはできない。

到達したのは屋根という構造性である。今までの屋根(例えば広重美術館、根津美術館)が壁をなくすための屋根、透明な壁の庇の屋根であったのに対して、今回の屋根で新しい構造性としての屋根という方向に踏み出した。似たものをさがすと「小さい建築」系列に属する韓国のアニャンのペーパースネークが屋根と構造性に近い気もする。

「大きい建築」に、どうやったら、怠慢な構造にかわる「新しい構造性」を与えるかは、つくづくたいへんだとやってみて思い知らされた。いままでのプロジェクトの中でも、最大級の難易度だったことはまちがいない。 (いままで、はっきり言ったことはないけれど、実は僕が一番嫌いなのは怠慢なのである。怠慢で同じことを繰り返しているのが一番嫌いなのである。どうしようもない怠慢を、権威とか、道徳をふりかざして、説教や威嚇を使っておおいかくしていくえらそうな大人が大嫌いなのである。そして壁は怠慢の象徴なのである。)

担当の藤原君、やってみてどうでしたか・・・。

隈 研吾

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya