この年末と年始は、地形のことを考えていた。紅白歌合戦に初出場したYOASOBIが、僕らのデザインした角川武蔵野ミュージアムの「本棚劇場」で歌ったことが話題になって、年明けそうそう、色々な方から連絡をもらった。「紅白」では、隈事務所の名前は紹介されなかったが、「本棚劇場」を知らない人にも、あれがKKAAの作品だと、すぐにわかってくれたらしい。それは「本棚劇場」が人工的な室内でありながら、ひとつの洞窟のように、すなわち地形のように見えたからではないと思う。ちなみに、オーストラリアから出版された僕の新しい作品集のタイトルはtopographyである。
地形については、友人の東工大教授、柳瀬博一の書いた「国道16号線 - 日本を作った道 - 」がめちゃめちゃおもしろかった。関東平野という、どうということはないと思っていた地形が、実は、日本列島を作った4つのプレート(太平洋プレート、ユーラシアプレート、北アメリカプレート、フィリピンプレート)の衝突によって生成された、きわめてユニークな地形であるということ、そしてそのユニークな地形を環状につなぐ国道16号線に点在する、角川武蔵野ミュージアムの所沢を始めとする様々な場所が、「日本」という文化を創造したという指摘が、とても新鮮だった。
「日本」とは一見遠いものに見える16号線が、「日本」の古墳時代から近代までを作ったという説である。思い起こせば、横浜から三浦半島、そして鎌倉、そして八王子、所沢と続く16号線に沿って、僕の青春時代の思い出のすべてが、展開されていることもわかった。特に、僕が「自然」というものを最初にいとおしいと感じたのが、この「16号線」という場所であることを、初めて意識した。
自分の人生を振り返ってみると、1960年代の高度成長のあとに、70年代に公害問題、環境問題と出会い、その時緑が失われ、空気が汚れていくことを、実感した。その時感じた、環境が失われていくことへの危機感のあとに、僕ははじめて、「自然」を発見することができたのである。その発見の場所が、16号線であったことを、柳瀬さんから教えてもらった。同世代のヒロインであり、僕の青春時代のアイドルであったユーミンが、16号線に「自然」を発見したパイオニアであったことを知って、ユーミンに対して僕が感じる共感の理由が、始めて納得できた。ユーミンが歌にするまでは、「自然」というのは。僕らと遠い場所にある、縁の薄い存在だったのである。