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#38 February 2, 2021


 この年末と年始は、地形のことを考えていた。紅白歌合戦に初出場したYOASOBIが、僕らのデザインした角川武蔵野ミュージアムの「本棚劇場」で歌ったことが話題になって、年明けそうそう、色々な方から連絡をもらった。「紅白」では、隈事務所の名前は紹介されなかったが、「本棚劇場」を知らない人にも、あれがKKAAの作品だと、すぐにわかってくれたらしい。それは「本棚劇場」が人工的な室内でありながら、ひとつの洞窟のように、すなわち地形のように見えたからではないと思う。ちなみに、オーストラリアから出版された僕の新しい作品集のタイトルはtopographyである。

 地形については、友人の東工大教授、柳瀬博一の書いた「国道16号線 - 日本を作った道 - 」がめちゃめちゃおもしろかった。関東平野という、どうということはないと思っていた地形が、実は、日本列島を作った4つのプレート(太平洋プレート、ユーラシアプレート、北アメリカプレート、フィリピンプレート)の衝突によって生成された、きわめてユニークな地形であるということ、そしてそのユニークな地形を環状につなぐ国道16号線に点在する、角川武蔵野ミュージアムの所沢を始めとする様々な場所が、「日本」という文化を創造したという指摘が、とても新鮮だった。

 「日本」とは一見遠いものに見える16号線が、「日本」の古墳時代から近代までを作ったという説である。思い起こせば、横浜から三浦半島、そして鎌倉、そして八王子、所沢と続く16号線に沿って、僕の青春時代の思い出のすべてが、展開されていることもわかった。特に、僕が「自然」というものを最初にいとおしいと感じたのが、この「16号線」という場所であることを、初めて意識した。

 自分の人生を振り返ってみると、1960年代の高度成長のあとに、70年代に公害問題、環境問題と出会い、その時緑が失われ、空気が汚れていくことを、実感した。その時感じた、環境が失われていくことへの危機感のあとに、僕ははじめて、「自然」を発見することができたのである。その発見の場所が、16号線であったことを、柳瀬さんから教えてもらった。同世代のヒロインであり、僕の青春時代のアイドルであったユーミンが、16号線に「自然」を発見したパイオニアであったことを知って、ユーミンに対して僕が感じる共感の理由が、始めて納得できた。ユーミンが歌にするまでは、「自然」というのは。僕らと遠い場所にある、縁の薄い存在だったのである。

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

ProjectsMaxplan Azabu 10麻布十番駅前のコーナーに建つテナントビル。 ALC(軽量気泡コンクリート)板という工業製品を用いていかに陰影に富んだ豊かな表現が可能かに挑戦した。 フランク・ロイド・ライトは1920年代、凸凹のついた表面のコンクリートブロックを用いてテキスタイルブロックハウスと呼ばれる表情豊かな一連の住宅を設計した。その時ライトは「ドブのネズミのように低く見られているコンクリートブロックの価値を逆転する」というユニークなコメントを残している。 われわれは単純な表情になりがちなALC板を用いて大和張りと呼ばれる日本の伝統的な壁のディテールを想起させるデザインを実現し、東京の街角のシンボルへと変身させた。 Read More