コルビュジエ自身がパリで住んでいたアパート(1935竣工)を、リストレーションを担当した建築家の案内で訪れることができた。
ガラスブロックと黒い鉄骨を組み合わせた外観の写真の印象で、即物的な機能主義建築を想像していたが、彼が住んでいた最上階のインテリアは、いい意味で予想を完全に裏切るものであった。コルビュジエという身体の生々しさが伝わってきて、彼の体温を直接感じることができた。 われわれは初期コルビュジエ作品の白黒写真でコルビュジエに出会ったので、コルビュジエを誤解してきたのではないかと感じた。
たとえば、彼が絵を描いていたアトリエの壁は、隣の建物と共有する粗石積の共有の壁が露出され、暖かく、やわらかかった(写真)。その壁に置かれていた、古い木製の棚(写真)は、スイスの山奥の時計職人であった彼の父親から譲り受けたもので、感動的なまでに粗末であった。
高さが90cmもあるスチールフレームのベッドに横たわってみたが、その高さだと、身体がパリの街の上に浮いているように感じた。
コートやジャケットを掛けるクロゼットは、彼の分も妻の分も60cmしかなく、彼が自分の身体以外のデコレーション ―たとえば服- に全く関心がなく、身体だけを信じ、身体とだけ生きた人間だったと感じた。
白いタイルの目地につけられた淡いブルーにも、いままでの写真からは気づかなかった。すべてが生々しく、暖かく、直接的だった。シャワーブースは、薄いコンクリートで洞窟のように作られていて(写真)、彼が愛したというアルジェリアの住居を思わせた。
粗石積の壁
古い木製の棚
シャワーブース