アンジェ・カテドラルのリノベーション/謙虚さと正直さ
フランスの古都アンジェのシンボル、サン・モーリス・カテドラルに、新たにガレリアを増築した。ロマネスクの教会堂に現代の建築家が新しい棟を加えるということ自体が、かなり特別な出来事だと言えるが、背景には文化財の保存をめぐる様々な議論があって、それだけで一冊の本が書けるくらいの分量になるだろう。
© Guillaume Amat
サン・モーリスのロマネスクのファサードに、ポリクロームの中世の彩色が2009年の調査で発見され、それを守るためのガレリア(ポルティコ)の建設が文化省の緊急課題となり、既存のファサードと調和した、現代の建築家による新しいデザインのコンペが行なわれた。
© Guillaume Amat
ほぼ同じ時期にパリのノートル・ダムの火災があり、こちらは完璧な復原、片方のアンジェでは現代建築による歴史の継承という対照的方法が選択された。この二つの国宝の修復プロジェクトで、二つの対照的方法を示すこと自体が、文化財行政の新しい一歩だと話題になった。
僕らのコンペ案は、他の案と比較して、最も建築家のエゴが希白で、humble(謙虚)だと評価されて最優秀案に選ばれた。一方でなぜ、カソリックの聖堂を日本人がやるのかという批判もあったし、デザインとして、革新的ではないという、現代建築家からのSNS上の批判も聞こえてきた。
しかし、このhumblenessこそがまさにわれわれが目指したものでもあった。サン・モーリスを細かく丁寧に眺めると、歴史とは、humblenessの積み重ねによって、つながれ、受け渡されるということがよくわかる。12世紀のロマネスクに始まって、時代の変遷とともに、ゴシック、ルネサンス、バロックと各様式が継ぎ足され、改変が施されていくわけであるが、その時々の建築家の頭にあったのは「革新か保存か」という二者選択ではなく、自分が生きている時代という限界の中で、いかに先人達の作ったものとの折り合い、バランスをとるかということであった。その謙虚な実践の積み重ねが、今日のサン・モーリスの美しさを産み出したのである。
われわれがもうひとつ大事にしたことは、構造的な正直さということであった。ロマネスクやゴシックの美しさが、構造的な正直さにあることはしばしば指摘されている。装飾という手段を用いて過去とつなごうとすると、どうしても建築が強さを失うと、われわれは考えた。謙虚であるということは、構造的であることと、根っこのところでつながっている。自分を飾ろうとしない謙虚さは、自然に、構造的な正直さにつながるのである。それは、アクロバティックな構造に挑戦することとは全く異なる。構造的に正直であることが、自然に、建築に安定感と静けさをもたらすのである。
プランニングにおいて、最もうまくいったと思うところは、リブのついたダイアゴナルな薄い構造壁の組み合わせである。45度のジオメトリーの魔法によって、ロマネスク期の地下躯体に対する影響を最小化しながら、しかも、厚みが感じられ、奥行き感のある軽量な壁面を創造した。その奥行き感は、21cmのモジュールを繰り返すリブによって、さらに増幅され、人々はアーチの重層にさそいこまれ、また同時に守られているという暖かな安心感を得ることができる。
45度のマジックによって、このアーチはガレリアの内部に対しても、また外部の広場に対しても、同じように凹型(アルコーブ状)の空間を生成し、凹型の親密な空間によって、前面広場は、ただの無性格な外部空間から、様々な活動を誘発する半室内へと転換された。
そしてこの「正直な」ガレリアは、石で化粧されるかわりに、プレキャストコンクリートの肌が、そのまま仕上げになっている。元々のロマネスクのファサードはトゥーホという名の地元の石灰岩を積み上げたものだったが、この地域を流れるロワール川の砂利と砂を原料として作られたわれわれのプレキャストコンクリートのテクスチャーと色合いは、ロマネスクのトゥーホと見事に響き合ってくれた。アンジェという美しい街を作り、その街を育ててくれたロワール川が、ロマネスクと現代を見事につないでくれたのである。
保存という行為は、守るという行為ではなく、つなぐという行為であることを、あらためて学ぶことができた。このプロジェクトを紹介したル・モンド紙(写真)は、「この建物が時代を経て独特の風合いを帯びたとき、それが永遠の昔からそこに存在していたかのように感じられるようになるに違いありません」という美しい一文で締めくくられている。そこに感じられる「永遠」こそ、まさにわれわれがここで捜し続けたものであった。

フランス・アンジェ大聖堂の西側入口で、12世紀および17世紀に遡る貴重な彩色彫刻が近年発見され、これらを保護するためのコンテンポラリーなギャラリーの設計が求められた。 この入口の特徴は、中世に特有の多彩色の石彫にある。その保存には、新しい建築の介入が不可欠であった。本計画では、中世建築の遺産を尊重しつつ、現代建築との調和を図ることを目指した。 中世の建設者の視点に立ち、コンパスによる幾何学的な規範 … Read More
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