フランク・ステラ/カラーコーン/地球OS
僕が『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』の依頼で書いた「いまこそ、地球のOSを書き換えよ」(2020年8月号)は、僕のテキストの中でも、最もリアクションが多かったかもしれない。
グリーンインフラ作りで知られる東邦レオの吉川稔社長がこのテキストを読み、「地球OS書き換えプロジェクト」を一緒に始めましょうと、声をかけてきた。それから6年、吉川さん達と数々の具体的なプロジェクトを手掛け、「地球OS」という宇宙的テーマを真剣に議論しながら、併走し、飛びまわることになった。
建築という道具に頼って地球をマネージメントしてきた20世紀型の地球OSを、別のもっとしなやかな道具を使うOSに書き換えようという目的で、様々なプロジェクトを立ち上げた。グリーン(植栽)、小さなエレメント群のネットワークなどのしなやかな道具類を使って、実験が繰り返された。
Global OS Project “Stella” at Tsukiji Jam
その最新の実験がこの5月24日に築地本願寺で開かれた、「築地JAM 2026」というイベントである。伊東忠太設計のこの素敵なお寺の境内に、僕らは「STELLA」という、ちょっと場違いな名前の移動式テーブルをデザインした。
2つのカラーコーンと2本のゴムロープを組み合わせて作ったテーブルは、軽量性、拡張性、アップサイクル性など、様々な意味で、新しい地球OSの哲学を体現したものであるが、最も重要なのは、「STELLA」という名前で、これは僕の敬愛する現代アーティスト、フランク・ステラ(1936-2024)からとらせて頂いたものである。
Global OS Project “Stella” at Tsukiji Jam
1985年、コロンビア大学に留学中の僕は、マッキム・ミード&ホワイト設計の美しい《ヴィラード邸》の中にあった、「アーバン・センター」というスペースで、ステラのトークを聴き、目からウロコが落ちるような特別な体験をした。
現代史の大きな転換点とも言えるプラザ合意(1985年9月)からの1年間、僕はニューヨークで様々な人に出会い、様々な体験をし、僕自身がプラザ合意に匹敵するような個人的大転換を経験したわけだが、その濃密な1年間の中でも、ステラのカラーコーンのレクチャーは、特別なマグニチュードを有していた。
まず、《ヴィラード邸》のサロンに、2本の真っ赤なカラーコーンが並べてあって驚いた。ミニマルな抽象画のスーパースターとはまったく不釣り合いなこのカラーコーンは、アートの神様のセキュリティのためにしても、大げさすぎる気がして、不安になった。
すると突然ステラが入ってきて、カラーコーンを手にとってレクチャーを始めたのである。真っ赤なコーンを、様々に回転させ、移動させながら、ステラは、話し続けた。
絵画は、鑑賞者をそのなかに引き込むような力を、取り戻さなければいけない。ステラは、その単純で、一番大事なことを伝えてくれた。カラーコーンが道に置いてあるだけで、空間から疎外され、ぼーっとした僕らは、突如その空間の中に引き込まれ、空間とつながっていく。行き詰まった抽象絵画を救うためには、このカラーコーンのような働きが必要だというメッセージの強さ、シンプルさに、僕らは圧倒された。
後で、そのレクチャーが、その2年前にハーバード大学で行ったチャールズ・エリオット・ノートン・レクチャーの要点をまとめたものであり、Working Spaceというタイトルで出版されたそのレクチャーは、現代アートの歴史を転換させたと言われるほどに重要なものであることを知った。
Frank Stella (1986), Working Space, Harvard University Press.
「築地JAM」のために、JAMの参加者のドリンクテーブルをデザインしてくれと頼まれて、ステラのカラーコーンのことが突然頭に浮かんだ。僕らの地球OSプロジェクトでめざしたものもまた、新たに大きな建築を作ることではなく、そのまったく逆に、小さなエレメントを使って、疎外されていた空間の中に入り込み、参加することだったじゃないか!
ステラがカラーコーンに目を付けたのは、ミニマルな抽象画の巨匠のイメージからすると、まったく意外で驚かされる。しかし抽象絵画の歴史を振り返ると、このカラーコーンのインパクトが無ければ、ミニマリズムの厚い壁は壊せなかったかもしれない。それだけの説得力を、あの時のカラーコーンは有していた。
40年の時を経て、ニューヨークから飛来してきた真っ赤なカラーコーンは、僕らの思惑通りに、見事に築地本願寺の前庭に事件を起こした。そのとんがった真っ赤な先端は、僕らを突き刺し、別の空間の中に僕らをぶち込んでくれた。

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