KKAA Newsletter #25 (January 23, 2021) See in English 日本語で観る

January 23, 2021 KKAA Newsletter #25


 数年ぶりに、ブラジリアを訪ねて、いくつかの新しい発見、気づきがあった。
 ひとつはアトス・ブルコン(1918-2008)というアーティストの発見。アトスはニーマイヤー(1907-2012)の下でインターンとして働いた後、インテリアデザインや、タイルのデザインなどで、ニーマイヤーとコラボしている。
 ブラジルでは、建築や都市計画などの大きいデザインが注目される傾向が強かったが、実は、ランドスケープ、プロダクトといった、人間とより近い領域が、建築と人間、都市と人間との間を媒介していることに、以前から関心があった。オルガニックで、ある種ピクチャレスクなランドスケープで知られる、ブール・マルクス(1909-1994)のデザインには以前から関心があったが、アトスの「小さなデザイン」にはより親近感を抱いた。ニーマイヤーの「大きなデザイン」がアトスという中間項を媒介として、ヒューマンなものへと分解されていく様子が面白かった(写真、クビチェク大統領記念館の壁)。スリランカのジェフリー・バワが、「小さな物」達に注目して、20世紀の建築を新しいフェーズに導いていったように( Newsletter#24 参照)、アトスは「小さい物」を媒介として、モダニズムの暴力と、かよわい人間とを取り持ち、つないだのである。

クビチェク大統領記念館の壁 (Brand Brasiliaより)

 中でも、最も面白かったのがブラジリアの住宅地域の中にデザインされたファティマ教会(1958)という小さな教会で(写真)、コンクリート教会でありながら、布のようにやわらかなカーブを描く屋根は、アルベロ・シザのリスボン万博のコンクリート屋根よりも、よりやわらかく、布に近い物に感じられた。アトスのデザインしたブルーのタイルで貼られた壁は、環境の中に融けこみ、ブラジリアの空気と混じり合い、布のように薄い屋根が、濃密な緑の中に浮いているように感じられた。深い庇で覆われた半屋外空間は、コルビュジエのロンシャンの庇を思い出させてくれたが、庇の下はより開放的で、結婚式のようなコミュニティの集まるイベント時には、庇が寛容さを発揮していて、コミュニティ施設としても、傑作だと感じた。間違いなく、教会建築の世界的傑作であると感じた。

ファティマ教会 アプローチから
ファティマ教会 庇

ファティマ教会のタイル

 
 ブラジリアでは、中心軸に沿ったモニュメンタルな建築ばかりが注目される傾向にあるが、実のところ、このファティマ教会などが位置する、中心軸と直交する住宅地域こそ、ブラジリアの最も上質な部分であると感じた。ブラジリアのマスタープランを作ったルシオ・コスタ(1902-1998)も、建築を担当したオスカー・ニーマイヤーも、国家のモニュメントに対する経験はなかったかもしれないが、― そんなものは人生でめったに訪れるものではない ― 人間の日常生活に対するリアルな感性は持ち合わせていたのである。
 
ニーマイヤーの集合住宅のピロティ

 中でも魅力を感じたのは、ニーマイヤーがデザインした、集合住宅のピロティ(写真)である。建築というヴォリュームを浮かせて、特別な物体(object)に見せることだけを目的としたコルビュジエのピロティには違和感しか感じなかったが、ニーマイヤーの集合住宅のピロティは、コルビュジエのピロティとは異質の、インティマシーを感じた。ピロティの床が、周辺の地面から30cm-40cm持ち上げられていて、テラゾーや磨いた大理石で仕上げられ、荒々しい大地とは区別された、「特別な床」としてデザインされていることが、面白かった。その空間は、日本の縁側にも似ていた。わずかに大地が持ち上げられることによって、その特別な床は、人間と大地との媒介となり、人間と大地とをつなげるのである。日本とは対極的なある種大ざっぱな感性の持ち主であると感じていたニーマイヤーの中に、「縁側」を発見したことは大きな収穫であった。
 この集合住宅群の魅力は、南面採光にこだわらないL字型配置にもある。直交する棟によって、ゆるやかに固定された外部空間は、南面採光によって規定された、日本を支配する並行配置にはない、のびやかさとダイナミズムがあり、一階のピロティによる空間の連続性によって、こののびやかさが生かされ、コルビュジエのピロティのぶっきらぼうな感じとも、伝統的な閉じたコートヤードとも異なる、第三の外部空間の可能性を感じることができた。ブラジリアの住宅地域のピロティがなくて、一階が閉じていたならば、随分つまらない地域になっていただろう。ピロティもまた様々であり、その可能性は、未来にも開かれている。

Kengo Kuma © J.C. Carbonne

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