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#33 August 18, 2020


 オリンピック開会式に予定されていた7月24日の前夜の20時から、国立競技場でイベントが開かれた。池江璃花子選手が、無人の会場の真ん中に、一人立ち、白い衣装に身を包んでゆっくりと話したメッセージは感動的だった。

©Tokyo 2020

 演出は僕の友人のクリエイティブ・ディレクター、佐々木宏。ソフトバンクの犬のCM、サントリーのBOSSのCMで知られるが、リオ・オリンピック閉会式のスーパーマリオの演出も彼の手になる。東大の建築学科でも、『これからの建築理論T-ADS TEXTS01 / ARCHITECTURAL THEORY NOW』のブックデザインをお願いして、丹下健三の代々木体育館をギョーザに見立ててくれた。 笑わせながら、同時に、人間性の本質を垣間見させてくれる佐々木さんのセンスから、いつも色々なヒントをもらってきた。

これからの建築理論 (T_ADS TEXTS 01)

 なかでも今回の池江のメッセージは抜群で、来年どんなオリンピックのセレモニーが行われたとしても、このメッセージの力にはかなわないのではないかと感じられた。

 国立競技場の使い方も秀逸で、僕らがデザインした5色モザイクの椅子が、人がいるような、いないような境界的状態を創造していた。突飛なたとえだが、国立競技場が能舞台のように見えた。能という芸術を完成させた世阿弥(1363-1443)は、複式夢幻能という形式を考案し、その舞台の主役(シテ)は必ず神・霊・精などの超自然的存在、すなわちある意味死んだ者であった。演劇の全体がワキの見た幻であるという形式は、世阿弥の発明であり、僕は「森舞台」(1997)をデザインする時に、複式夢幻能とヴォイドとしての空間について思考した。コロナによって、生と死の境界が消えてしまったように感じられる今、という時の本質を、佐々木さんは見事に可視化してくれた。この瞬間を持てたことで、国立競技場も喜んでいると思う。

Noh Stage in the Forest ©Mitsumasa Fujitsuka
Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

Projectsステキハウスコンパクトでサステイナブル(持続可能)な都市のモデルとして知られる、オレゴン州ポートランドの郊外に建つ、緑と一体化した「木の住宅」。 20世紀の郊外住宅のモデルとなったアメリカの住宅は、芝生の上にたつ、孤立したボックスだった。環境と一体化した、サステイナブルでヒューマンな住宅をデザインすることで、21世紀の郊外住宅のプロトタイプを創り出すことを、このプロジェクトの目標とした。 目の前のクリークに対して開かれたL字型プランは、フランク・ロイド・ライトの落水荘に対するオマージュでもある。クリークに面した縁側空間は、外部空間でも内部でもない、第三の生活空間の提案である。庇でカバーされた「縁側空間」は、雨の多いポートランドの気候にも対応し、われわれがポートランド日本庭園 カルチュラル・ヴィレッジ(2017)で試みた中内外の中間領域を、住空間に応用したものである。また、地元のアメリカンイエローシダーと、日本の杉を組み合わせた外装・内装は、日本の住宅文化とアメリカの住宅文化とのコラボレーションであり、20世紀初頭にライトが試みた、日米の文化交流の、21世紀バージョンである。 Read More