東京、北の丸公園の国立近代美術館で、6月18日から 9.月26日までの会期で、 「隈研吾展:新しい公共性をつくるためのネコの5原則 (Kuma Kengo: Five Purr-fect Points for a New Public Space)」が開催される。国立近代美術館の70年の歴史で,初めての建築家の個展ということである。
今まで何回か隈事務所の個展は開催されたが、今回の展覧会は、様々な意味で、僕の転換点になるだろう。
ひとつは、国立競技場という大きな仕事に携わり、それを終えたという意味での、僕の転換点。僕にとって、1964年の第一回の東京オリンピックの、丹下健三設計の国立代々木競技場を、どのように折り返せるか、どのように対極たりうるかを意識しながら、「国立」をデザインした。右肩あがりの高度成長期の「男性的なコンクリートのモニュメント」の対極としての、右肩さがり、少子高齢化時代の「やさしい、木のアンチモニュメント」。丹下が1961年に発表した「神の視点」で描いた神的スケールを持つ「東京計画1960」の対極として、猫の視点で、猫的スケールで描いた「東京計画2020」も、そんな気持ちで発表した。
もうひとつの転換は、コロナという歴史的大事件に出会ったことでの、僕の転換である。コロナは、集中へ、都市へと一方的に流れてきたホモサピエンスの歴史の折り返し地点であると僕は感じた。集中から分散へ、都市から自然へと折り返さないと、僕ら人類はもう「もたない」と全員が感じたのである。
その折り返しを、どういう形で建築化するか、どういう形で僕らの働き方、僕自身の生き方に反映するか、そういうことも、この展覧会を作り込みながら深く考え、展示の中に、そのためのヒントを埋め込んだ。東京の僕のオフィスを、地方の小さなサテライトオフィスに分解していくことも、公益財団を作って、若い人の育成に力をそごうと思ったのも、すべて、この折り返しの産物である。
社会、世の中、人生の様々な転換が重なったことで、このような忘れられない展覧会を、みなさんにお見せすることができた。