「やわらかいものへ」
はじめて、服を作った。カーボンファイバーをはじめとする様々な素材を使ってコラボしてきた小松マテーレから、小松市にある小松大学の、アカデミーガウンのデザインを頼まれたのである。
ファッションデザインとのコラボやブランドとのコラボ(たとえばイタリアのMontruraとコラボしたsashikoのジャケット)は試みたことがあるが、単独で服をデザインしたのは初めてである。
四角い日本のキモノにヒントを得て、固いジオメトリーが、突如として人体にフィットしたやわらかな衣服に変身する仕掛けを、うちの「布担当」の佐藤未季さんと考えた。キモノは、あらゆる体形にフィットする不思議なフレキシビリティを持っているが、今回のアカデミックガウンも、フリソデの上にはおれるような、究極のフレキシビリティ、究極のユルサを有している。建築でもユルサを追究しているKKAAだが、布のやわらかさを用いることで、ユルサの概念を拡張することができた。
KKAAは様々な形で木の建築に取り組んできたが、これからは、木よりもさらにやわらかい布に、積極的に挑戦したい。メムメドーズのように建築に布を取り込むだけではなく、今回のプロジェクトのように、建築というフレームを超えて、布単独でのデザインにも、どんどん関わってみたい。
思い返すと、僕のプロダクトデザインのヒストリーは、高校生の時の、ワイシャツのオーダー体験からはじまっている。綿の生地の番手選びから始まって、カラーの長さ、角度、エッジのとがりかたを決めながら、プロダクトデザインの楽しさに触れることができた。布のデザインは、素材がやわらかいことがおもしろいだけではなく、布を媒介として、身体と環境との関係を学び、そこに介入できることが面白いのである。身体に近づくためには、布のやわらかさが役に立つ。