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#57 May 14, 2024


 全く偶然に、ドバイの大洪水に遭遇した。東京で前後にはずせない用がはいっていたので、ミラノへの一泊出張というクレージーな旅の帰りが、ギリギリのスケジュールを可能にしてくれるドバイ経由のエミレーツであった。
 しかし、まずミラノ ― ドバイ便が大嵐のために予定通りにドバイ空港にたどりつけず、そこから大洪水のドバイで、二日間缶詰めになった。まず空港からホテルへ車で向かったが、道路がすでに川のようになっていて、事態が尋常でないことを知った。なんとかホテルにたどりついて、部屋に入っても、激しい雨はふりやまず、空はまっ昼間であるにもかかわらず、緑がかった真っ黒で雷が鳴りやまなかった。砂漠の中に蜃気楼のように出現した大都市ドバイとはとても思えなった。暗闇の中にそびえ立つガラスとアルミの超高層は不気味で、LEDの白い光はなぜかまばらで、すでにこの都市はゴーストタウンなのではないかと疑った。
 降りやまない雨と雷の中で一晩を過ごして、早朝の5時にロビーに降りた。7時40分発の羽田便は飛ぶというメッセージが携帯に届いていたのを信じることにした。タクシーを捜したが、車寄せも水浸しで一台の車もなかった。フロントに聞いても「タクシーはない」と叫ぶだけで、彼らも思考能力を失っていた。この都市も、ここの人も、大洪水などというものを想定していなかったのである。二年間分の雨量が一日に降ったので、そもそも排水計画のない都市は、大きな湖のようになっていた。
 飛行場にも行けないし、東京便にも乗れないだろうとあきらめた僕の前に、一台の黒いバンがあらわれた。ロビーにいたインド人のグループが予約していたバンで、ここでは珍しくやさしい顔をした運転手に尋ねると、空港までいけるかわからないが、トライしてみると、ほほえんでいる。少し多めのチップをつかませて、「オレも乗せろ」と頼んでみた。彼がにっこりほほえんだので、助手席に乗り込んだ。
 このバンはまるでノアの箱舟のようだった。湖のような街の中を、一台だけで走った。たくさんの高級車が動けなくなって、打ち捨てられていた。その高級車の墓場の間をぬって、様々に迂回を繰り返しながら、なぜかこのノアの箱舟は空港に辿りついた。この運転手はたぶん天使の化身だと感じた。
しかし、その日の羽田便は、結局欠航だった。空港も水浸しだった。6時から15時まで9時間待たされて、最後に予想通り、欠航がアナウンスされた。当然ほとんどの便が欠航で、コネクティングディスクに人々は殺到し、長い行列がてきていた。行列はそもそも嫌いだが、そこに並ぶしか無事に帰れる途はないので、長い列の最後尾につけた。人々はすべていらだっいて、罵声がとびかっていた。結局そこに12時間立ったままで並んで次の日の7時発の羽田行きのチケットを手に入れた。
 ひどい目にあったことは間違いがないが、ノアの大洪水のようなものを実体験できたという意味では、まったく貴重な体験を神から与えられたと感じた。
 地球環境がここまで来ていることが実感できた。12時間立ち尽くす位のことは、近い将来にわれわれを襲うであろう大きな危機の前では、ゼロに等しいだろう。それを教えるために、神がこの特別な日に、僕をドバイに送ったのだろう。

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

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