建築を学ぶ学生を応援しようと考え、隈建築奨学財団を設立した。公益財団の許可も頂き、この春から本格的に動き出す。
自分自身が若い頃、色々な奨学金の御世話になった。学部生の頃は、日本の証券会社の団体が作った証券奨学会から、返済不要な奨学金を頂けた。そのおかげで、各地方の建築を見てまわる旅をすることができたし、日本の地方の魅力も知った。それにも増して、受給者の集まりで、他分野のおもしろい人材に出会え、友人になれたのが楽しかった。そのうちの何人かとは、今でもおつきあいが続いている。IPS細胞研究で知られる山中伸弥先生も、その受給者のひとりなので、先生の活躍を見ると仲間だという意識で、応援したくなり、こちらも頑張ろうと思う。
ニューヨークのコロンビア大学で客員研究員として学んだ時には、ACC(アジアン・カルチュラル・カウンシル)から奨学金をいただいた。ACCはロックフェラーによって設立された財団で、アジアとアメリカとの文化交流を目的として、アーティストやアート研究者を支援している。建築の受給者は、僕以外にほとんどいないそうだが、その時の審査員のひとりの磯崎新さんに推してもらって、僕はニューヨークの一年間を、充実した時間とすることができた。
同じACCでNYに滞在していたアーティストや、アメリカの若いアーティストや、アメリカの若いアーティスト達との交流も楽しかったが、ACCにアレンジしてもらって、当時活躍していたアメリカの建築家のアトリエを訪ね歩き、彼らの「日常」に触れられたことは、大きな財産になった。雲の上の神様に見えていたスター建築家達の、「普通」の暮らしぶり、働きぶりをこの目で見て、自分が、建築家として生きていけるという、自信のようなものを手に入れることができた。遠い夢が、少し近くなったように感じた。
僕も、そんな若い頃を思い出し、そろそろ恩返しをして、次代の若い人を育てようと考えた。特に若い時、人は小さなことで、大きく変わる。ちょっとしたことがきっかけで、人は大きく育つ。そんなきっかけを作る手伝いをしたいと思う。