KKAA Newsletter #39 (April 19, 2024) See in English 日本語で見る

#39 April 1, 2021


 建築を学ぶ学生を応援しようと考え、隈建築奨学財団を設立した。公益財団の許可も頂き、この春から本格的に動き出す。
自分自身が若い頃、色々な奨学金の御世話になった。学部生の頃は、日本の証券会社の団体が作った証券奨学会から、返済不要な奨学金を頂けた。そのおかげで、各地方の建築を見てまわる旅をすることができたし、日本の地方の魅力も知った。それにも増して、受給者の集まりで、他分野のおもしろい人材に出会え、友人になれたのが楽しかった。そのうちの何人かとは、今でもおつきあいが続いている。IPS細胞研究で知られる山中伸弥先生も、その受給者のひとりなので、先生の活躍を見ると仲間だという意識で、応援したくなり、こちらも頑張ろうと思う。

 ニューヨークのコロンビア大学で客員研究員として学んだ時には、ACC(アジアン・カルチュラル・カウンシル)から奨学金をいただいた。ACCはロックフェラーによって設立された財団で、アジアとアメリカとの文化交流を目的として、アーティストやアート研究者を支援している。建築の受給者は、僕以外にほとんどいないそうだが、その時の審査員のひとりの磯崎新さんに推してもらって、僕はニューヨークの一年間を、充実した時間とすることができた。

 同じACCでNYに滞在していたアーティストや、アメリカの若いアーティストや、アメリカの若いアーティスト達との交流も楽しかったが、ACCにアレンジしてもらって、当時活躍していたアメリカの建築家のアトリエを訪ね歩き、彼らの「日常」に触れられたことは、大きな財産になった。雲の上の神様に見えていたスター建築家達の、「普通」の暮らしぶり、働きぶりをこの目で見て、自分が、建築家として生きていけるという、自信のようなものを手に入れることができた。遠い夢が、少し近くなったように感じた。

 僕も、そんな若い頃を思い出し、そろそろ恩返しをして、次代の若い人を育てようと考えた。特に若い時、人は小さなことで、大きく変わる。ちょっとしたことがきっかけで、人は大きく育つ。そんなきっかけを作る手伝いをしたいと思う。

隈建築奨学財団ホームページ

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

ProjectsGrand Seiko Boutique Vendomeパリの高級ブティックにとって最高の立地とされるヴァンドーム広場に立地するということなので、従来の大理石+メタルという高級ブティックとはまったく違う質感の空間を作ろうと考えた。 「日本の時計ブランド」がストレートに感じられる素材として、竹の簾虫籠(スムシコ)と畳を選んだ。簾虫籠は山形の銀山温泉の藤屋旅館で最初に用いて以来、KKAAのシグネチャーマテリアルとなっている。畳は通常この様に展示台に使われることはないので、今回の畳の展示台は大きな挑戦だった。 Read More
Projects境町 S-Lab隣接するS-Galleryと連動し、茨城県境町の町おこしの拠点となる、町の特産品の研究開発ラボ。 研究開発の様子を直接外からも眺めることのできる、開放的でアクティブなラボを目指した。 S-Galleryの脇の路地状広場とS-Lab前のミニプラザを連続させることで、街の中に車の道とは異なる、ヒューマンでエピソードに満ちた回遊動線を創造した。 Read More
Projects境町 S-Gallery茨城県境町に、この町で晩年を過ごした芸術家、粛粲寶の作品を展示する美術館をデザインした。 旗竿状の敷地を生かした奥までリニアに続く細長い美術館は、町並みのスケールに合わせて分節され、周辺の民家のスケールと調和する。 分節によって生まれた小さな空間の集合体は、粛粲寶の、時としてユーモラスなほどに人間味溢れる画風と響きあっている。 Read More
Projects伸和コントロールズ長野事業所アルプス伊那工場日本アルプスに囲まれた伊那谷に、アルプスを感じられる、ヒューマンでナチュラルな工場をデザインした。 伊那市名産のシルクにインスパイアされ、地元の木材を編むようにしてインテリアのディテールを作り込んだ。 アルプスを一望できる、ゆったりとした食堂空間をコミュニケーションの中心と捉え、やさしい質感と温かい照明の下で、従来の「工場」には存在しなかったようなヒューマンな人間関係を創造しようと試みた。 Read More
ProjectsMultiplication現実のLIXILギャラリーがコロナで閉廊したため急遽ヴァーチャルな「隈研吾展」を作り上げた。オンラインで隈研吾の世界を体験してもらった。京橋のLIXILギャラリーを3DCGで再構築し、その中を歩き回ると抽象化され、分解された隈研吾の建築が目の前でインタラクティブに再構築される。 場所と人、過去と現在、リアルとヴァーチャルがさまざまに組み合わされ、入れ子状に接続された状態が体験できる新しいタイプのヴァーチャルミュージアムを目指した。単に隈建築を体験するだけではなく、隈要素が生成され組み合わされ、生成のルールを感じ取ることができる。 Read More