カンダラマ
クラブビラ
ルヌガンガ
スリランカの建築家 ジェフリー・バワ(1919―2003)の生誕100年の記念イベントで基調講演をした。その日(7月30日)はまさに、彼の誕生日であった。
ジェフリーは、現代建築史の分水嶺のような存在であると僕は考えている。すなわち、工業化社会の制服であったモダニズムを、ポスト工業化社会のゆるく、やさしい建築へと転換させたキーパーソンがバワであり、バワの成し遂げたことを、僕らは引き継いでいると感じる。
バワの主な戦場がホテルであったという事にも僕は共感する。工業化社会の建築家の主戦場は、効率性を最大の目的としたオフィスと人口増に対応するための住宅であったが、ポスト工業化社会の建築家にとってのそれは、それぞれの場所の魅力を引き出すホテルなのである。工業化社会の価値観では、ホテルは単なる商業施設であったが、今日、ホテルは地域を再生し、地域のクラフトマンシップを守り、地域文化を世界に発信するための建築であり、建築文化の最前線に位置すると僕は考える。だから僕らは、ホテルの仕事を積極的に引き受けている。
バワの傑作もホテルが多い。僕らが生誕100年記念のパビリオンのデザインを依頼された彼の別荘ルヌガンガも、今回僕が初めて訪れたジャングルの中のホテルで、晩年の傑作と呼ばれるカンダラマも、共にホテルと定義することができる。
これらのホテルで最も重要なことは、同じく生誕100年のイベントに招かれていた、MOMAのキュレーター、ショーン・アンダーソンが指摘したように、彼は単に建築という「器」をデザインしたのではなく、その中に散らばる、様々なオブジェクトをセレクトしデザインしたということではないかと、僕も感じた。20世紀の建築家達は、がらんどうの「器」をセレクトしデザインしようと試みたが、バワは、小さな物達が雑然と散らばった状態をデザインしたのである。その意味で、彼のホテルはミュージアムでもあり、ライブラリーでもあった。
僕らが建築だけではなく、家具からプロダクトまで様々なものに、好奇心のままにチャレンジするのは、僕らもまたがらんどうを超えて、オブジェクトが散乱する状態をめざしているからなのである。
ルヌガンガにも、僕らが現在改装中の彼の小さなホテル、クラブビラにも、スチールをまげて作った彼の椅子が置かれていた。この椅子の線をモチーフとして、ルヌガンガに置かれるパビリオンをデザインしている。建築という大きな物ではなく、小さなものがばらまかれたゆるい状態を、バワは作りたかったに違いない。その方向の先に、未来の建築が見えてくる。
ルヌガンガの椅子
ルヌガンガのパビリオン