KKAA Newsletter #24 (March 29, 2024) See in English 日本語で見る

#24 August 9, 2019


カンダラマ

クラブビラ

ルヌガンガ

スリランカの建築家 ジェフリー・バワ(1919―2003)の生誕100年の記念イベントで基調講演をした。その日(7月30日)はまさに、彼の誕生日であった。
 ジェフリーは、現代建築史の分水嶺のような存在であると僕は考えている。すなわち、工業化社会の制服であったモダニズムを、ポスト工業化社会のゆるく、やさしい建築へと転換させたキーパーソンがバワであり、バワの成し遂げたことを、僕らは引き継いでいると感じる。
 バワの主な戦場がホテルであったという事にも僕は共感する。工業化社会の建築家の主戦場は、効率性を最大の目的としたオフィスと人口増に対応するための住宅であったが、ポスト工業化社会の建築家にとってのそれは、それぞれの場所の魅力を引き出すホテルなのである。工業化社会の価値観では、ホテルは単なる商業施設であったが、今日、ホテルは地域を再生し、地域のクラフトマンシップを守り、地域文化を世界に発信するための建築であり、建築文化の最前線に位置すると僕は考える。だから僕らは、ホテルの仕事を積極的に引き受けている。
 バワの傑作もホテルが多い。僕らが生誕100年記念のパビリオンのデザインを依頼された彼の別荘ルヌガンガも、今回僕が初めて訪れたジャングルの中のホテルで、晩年の傑作と呼ばれるカンダラマも、共にホテルと定義することができる。
 これらのホテルで最も重要なことは、同じく生誕100年のイベントに招かれていた、MOMAのキュレーター、ショーン・アンダーソンが指摘したように、彼は単に建築という「器」をデザインしたのではなく、その中に散らばる、様々なオブジェクトをセレクトしデザインしたということではないかと、僕も感じた。20世紀の建築家達は、がらんどうの「器」をセレクトしデザインしようと試みたが、バワは、小さな物達が雑然と散らばった状態をデザインしたのである。その意味で、彼のホテルはミュージアムでもあり、ライブラリーでもあった。
 僕らが建築だけではなく、家具からプロダクトまで様々なものに、好奇心のままにチャレンジするのは、僕らもまたがらんどうを超えて、オブジェクトが散乱する状態をめざしているからなのである。
 ルヌガンガにも、僕らが現在改装中の彼の小さなホテル、クラブビラにも、スチールをまげて作った彼の椅子が置かれていた。この椅子の線をモチーフとして、ルヌガンガに置かれるパビリオンをデザインしている。建築という大きな物ではなく、小さなものがばらまかれたゆるい状態を、バワは作りたかったに違いない。その方向の先に、未来の建築が見えてくる。

ルヌガンガの椅子 

ルヌガンガのパビリオン

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

ProjectsStarbucks Reserve® Roastery Tokyo新しいカフェ文化を都市にもたらしたスターバックスによる新業態、Starbucks Reserve® Roasteryの東京店。シアトル、上海、ミラノ、ニューヨークに次ぐ5つ目の店舗となる。 キャスクと呼ばれる高さ17mの巨大なコーヒー豆の貯蔵庫を中心に置いたスパイラル状の構成で、コンクリートのアクティビティの立体化を試みた。この3次元の街路に沿って、ベーカリー、カクテルバー、ティーセクションなどの、従来のスターバックスとは異なる機能がはりつき、街路の多様性の立体化が実現した。 都市との連続性を獲得するために、上階にも縁側状のテラスを設け、目の前の目黒川と桜並木を眺めながら、コーヒーを楽しむことができるようにした。重層するテラスの軒を杉板による大和張りで仕上げ、五重塔のように、木で作られた軒を重層させることで、垂直な壁で構成された従来の都市建築に代わる、陰影豊かな新しい現代の盆栽、都市建築の原型を提案しようと試みた。 西側の縁側には、隣接する集合住宅とのバッファーとして、立体的なプラントボックスを挿入した。直径16.3mmのワイヤーでアルミ製のプラントボックスを支え、給水、排水のパイプを一体化することで、従来は脇役でしかなかったプラントボックスを、ファサードの主役としてデザインした。その意味で雨樋をファサードの主役とした、桂離宮をはじめとする日本の伝統建築にもつながる試みである。 Read More
Projects浜田醤油200年の歴史を持つ、醤油蔵の再生。高度な左官のテクニックによって可能となったナマコ壁と呼ばれるディテールの白壁を復元し、さらに鏝絵師仁五さんの手を借りて、新しい立体的なロゴマークを、しっくいを用いて、外壁につけ加えた。 蔵には、従来の醤油製造の機能にキッチンアトリエ、カフェの機能を付加し、蔵全体を熊本の醤油という文化を伝えるミュージアムとして、再生させた。 インテリアでは、屋根裏の丸太を組んだ骨組みを見せ、古い土壁の下地である竹小舞を露出し、時代が積層する様子を、可視化しようと試みた。 Read More
ProjectsUro-Co東京都江東区 2019.03 15m² パビリオン 東京大学隈研究室、小渕研究室、長谷工コーポレーションがコラボして、長谷工の新しいプレゼンテーションスペースLIPSのために、木の合板を使って、パビリオンを作った。 合板にレーザーカッターで切込みを入れることで生まれる柔軟性に着目し、しかも座れる強度を有する、パビリオンと家具の中間的な存在をデザインした。 その最も適切な柔軟性を確保するために、ひし型の孔の形状、寸法をGrasshopperとモックアップを使ってスタディを繰り返し、この厚みとパターンに到達した。構造計画は同じく東京大学の佐藤淳准教授が担当した。ウロコはひし型の孔が魚のウロコに似ているからでもあり、また全体の形状が魚のようであることにもよる。 プロジェクトチーム: 東京大学建築学専攻 T_ADS(隈研吾研究室+小渕祐介研究室+佐藤淳)+ 株式会社長谷工コーポレーション Read More