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#28 February 10, 2020


 2つの本を書下ろしで書いた。国立競技場の設計に携わっていた、忙しい時期に、よく2冊も本を書く時間を見付けられたものだと自分でも感心するが、この時期だからこそ、本を書くことができたのだということもできる。すなわち「新国立」といういままでの人生で味わったことがないようなプレッシャーが、僕の背中を押して、この2冊を書かせたのである。「新国立」という事件が人生で起きなければ、この2冊の本は生まれなかったであろう。
 1冊は岩波書店から出る『点・線・面』である。自分の建築的方法が前の世代の建築家達と、そしてさらにその前のモダニズムの建築家達とどう異なるかを、徹底的に総括しようと考え、僕の方法を『点・線・面』の方法、すなわち粒子の方法と呼んでみたわけである。『点・線・面』はの中心的人物でもあったロシアの画家、ワシリー・カンディンスキーの著作と同名で、実は僕はこの本を高校時代に読んで衝撃を受け、そのままずっと座右に置いていた。僕流の『点・線・面』を書いていてもっとも興奮したのは、量子力学以降の現代物理学と僕の方法の平行関係について思考した時である。

 コルビュジェ等のモダニスト達はアインシュタインと自分達をパラレルだと考えていたが、モダニズムの基本はニュートンの静力学であるように僕には見える。空間の中を方程式に従って物が運動するニュートンを古典力学が第一段階。時間と空間を接続したが、依然として法則(方程式)というものの存在は否定しなかった第二段階。対象とする世界の超拡大、超縮小に伴い、そのすべてを貫通して支配する法則の存在自体と否定し、すなわち物理学という学問自体を否定したような量子力学以降の物理学が第三段階。
このような三段階説で、この世界の現状がかなりリアルに見えてきたし、僕という建築家の方法と、この量子力学以降の方法の平行関係が見えてきて、興奮した。最新の量子力学については、恩師原広司が絶賛する大栗博司の一連の本から多くを教わった。
 もう1冊は、新潮社から出る『ひとの住処』で、僕が書き続けてきた自伝的書物の中の決定版となるだろう。1964、1985、2020という3つの補助線を引くと、僕の人生と僕の方法が想像していた以上にクリアに見えてきた。その意味で、2020だからこそ、2020年という補助線を獲得したからこそ、この本が書けたわけである。

「点・線・面」
「ひとの住処」

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

Projects富岡倉庫3号倉庫絹の街富岡の駅前にたつ、木造の「3号倉庫」を、カーボンファイバー(CFRP 炭素繊維強化プラスチック)を用いて耐震補強し、コミュニティのための交流施設として再生させた。通常、木造の耐震補強には鉄が用いられるが、付加した鉄の重量が、耐震性能を弱めてしまうという矛盾があり、また、鉄の質感が、木造のやわらかさを損なうという問題もある。 一方、カーボンファイバーは、鉄の20分の1の重さで、引っ張り強度も鉄より強く、質感もやわらかく、近年、伝統木造建築の耐震補強にも用いられるようになった。 今回は、カーボンファイバーでアヤトリをするようにして、木造建築を補強し、大きく開口部をあけることで、旧倉庫と広場とを一体化し、われわれの設計した富岡市役所と連動して、絹の街富岡にふさわしい、繊細で透明なパブリックスペースが生まれた。 Read More
Projectsミクニ伊豆高原伊豆半島の崖に相模湾を望む「懸造」のレストランをデザインした。 日本の地形は複雑であり、地形と建築とを調停するために様々な手法が発明された。 「懸造」は急斜面の上に建築を浮かせるように建てる手法で、京都の清水寺がその代表である。 鉄骨を用いて透明感のある「懸造」を作り、その上に最長で11.4mのヒノキの無垢の板を組んで屋根を浮かせた。 崖の緑の上にヒノキでできた雲のような建築を浮かせることができた。 シェフの三國清三さんによる伊豆の自然素材を生かした料理と、ヒノキの香りのする建築とは、絶妙のハーモニーを奏でる。 Read More
Projectsトーキングゴリラ新しい下北沢駅の中に、「下北沢」をテーマにして焼き鳥屋てっちゃんをデザインした。 アルコナプラッツ(ベルリン)の蚤の市で見つけたガラクタのネオンサインを散りばめることで、「下北沢」らしいガラクタ的な焼き鳥屋が出来上がった。 小さな路地が密集し、安く飲める居酒屋が連なる下北沢の中で、ネオンサインは点滅している。 Read More
ProjectsLodi Veterinary Universityロンバルディアの平原の中に建つ、ミラノ大学の獣医学部の新しいキャンパス。 ロンバルディアの農家に伝わる、伝統的な中庭形式にヒントを得て、低層の建築ブロックを直交させながら、空間を定義していった。既存の運河を保存して、運河の上に、ブリッジのように建築がまたがり、ランドスケープと建築とを、切断せずに一つの統一体として融合した。建築の前面には、大きな庇をはり出して中間領域を作り、日本の伝統建築の「縁側」に似た、コミュニケーションの場所を創造した。 木材のプランクをファサードと天井に用いることで、建築に温かさとリズムを与え、ロンバルディアの緑の風景の中に融けるようなキャンパスができあがった。 Read More