ヴェネチア・ビエンナーレ2025
今年のヴェネチア・ビエンナーレのテーマは"Intelligens. Natural. Artificial. Collective"という手の込んだもので、コミッショナー、カルロ・ラッティ──MIT教授で建築ICTの、世界のリーダーのひとりである──からAIをテーマにしたインスタレーションを依頼された。
ヴェネチア・ビエンナーレには、1995年に日本館の代表として出展を依頼されて以来30年のつきあいになるが、今年のテーマはカルロのなみなみならぬ意気込みが感じられたので、今年はひとりで出展するのではなく、日本のAI第一人者である東京大学の松尾豊先生を誘い、構造の江尻憲泰にも声を掛けて、デザイン+エンジニアリングのチームを組み、北イタリアで木材資源の保存をテーマに活動している昔からの友人のジャンルカ・サルバトーリ、3Dプリンター技術でイタリアをリードするCARACOLも誘い、日本・イタリアの強力な合同チームを組織してみた。
ジャンルカから出てきたアイデアは、2018年に北イタリアを襲って、数万本の木をなぎ倒した暴風雨Vaiaによる倒木を何とか使えないかというものだった。
自然のナマモノである木を製材し規格化することに長年ずっと疑問を感じていたので、倒木を製材して整えること(人工化)をせずに、そのまま使うということに挑戦することにした。
しかし、倒木は究極のランダムネスを持つ生の素材であり、これを素材として建築を組み立てるには、工業化、社会の基本的方法である標準化とは対極的な方法が必要である。そこでまさに、いかなるノイズもそれなりに形として組み上げることができる柔軟な方法、すなわちディープ・ラーニングの松尾先生と松尾研の出番となるわけである。
とすると、ここで倒木というノイズからゆるい全体を生成する方法は、標準化をめざしたコルビュジエのドミノ(Dom-ino, 1914)の方法のまさに対極ではないか。

すなわち上から下へとルールを下ろしていく演繹主義的なDominoに対し、下から上へとさかのぼる帰納的な方法の探究になるのではないかと考え始めた。正確にいえば、個別から結論を導こうとしているわけでもなくて、個別が個別のままに組まれているという、別種の論理構造、演算の提案である。そのように思考した結果、今回のインスタレーションを、Domino 3.0と命名したのである。2014年に同じくヴェネチア・ビエンナーレで発表された、仕上げを木に代えたベニア製のドミノは、中間的なDomino 2.0で、僕らの挑戦は、その一歩先をめざした。
そのランダムな倒木同士の組み合わせの力を発揮したのが、CARACOL社が倒木の3Dスキャンデータに基づいて製作した、TPE(熱可塑性エラストマー、Thermoplastic Elastomer)を素材とするやわらかなジョイントである。工業化社会の、すなわちDomino 1.0的なジョイントがすべて硬く、カチカチで、動きに対して追随性がなかったのに対し、今回僕らが開発したジョイントシステムは、人間の関節や樹木の小枝の分岐のように、徹底してやわらかい。あらゆる種類の動き、成長、変化に細やかに対応し、未来の建築はこのようなやわらかさに帰還するという予感がある。
かくして、このやわらかなDomino 3.0は森に対して融け、人間が森に帰るための完全な道具となる。Domino 1.0が、人を森から切り離し、人を都市に詰め込むだけの道具であったとしたら、Domino 3.0は、自然と人をつなぎ直すための道具であり、全く逆の方向に人類を導くのである。

AI を全体テーマとして開催されているヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2025)のために、森に帰るための家 Domino 3.0を提案した。 素材として用いたのは、2018 年 10 月暴風雨 Vaia によって根こそぎ破壊され、放置されていた樹木である。倒れた樹木を3D で完全にスキャンし、それを AI の助けを借り、構造的整合性をとりながら森の中に融けるような姿で組み立てていった。 動きに … Read More
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