KKAA Newsletter #26 (March 28, 2024) See in English 日本語で見る

#26 November 29, 2019


10月13日、建築史家のチャールズ・ジェンクスが亡くなった。ジェンクスというと、ポストモダニズムという言葉の生みの親として知られているが、ポストモダニズムというひとつの思想、時代を超越した大きな存在であった。僕にとってのジェンクスは、モダニズム以後の建築における社会と建築と、地球環境と建築との関係を思考する、唯一の「知の巨人」であった。
 ポストモダニズムには、本来、そのような文明史的な視点があったにもかかわらず、それが建築様式のひとつだと誤解され、矮小化された。
 黒川紀章さんの、国立新美術館での個展(2007)のオープニングの夜に、ジェンクスと黒川さんと語りあったことも忘れ難い。ジェンクスの亡くなった奥様マギーさんは、名門貴族ケジック(Keswick)家の出身であり、日本の天皇家とケジック家は古くからの友人であった。新美術館にいらした上皇后美智子様とジェンクスのお親しそうな御様子、その意外な組み合わせに、会場に居合わせた全員が驚いた。
 フォーマルなオープニングのあと、ジェンクスと黒川さんとで恵比寿の寿司屋に場所を移し、黒川さんは羽織袴姿から解放されて、のびのびとして、いつもの気さくな黒川さんに戻っていた。国立新美術館の木製ルーバーを、ジェンクスが隈の影響だと指摘すると、黒川さんはむきになって、ルーバーは、1960年代に自分が現代建築に持ち込んだものだと、例をあげながら力説した。
 ジェンクスはその後も、イギリスでの僕の講演に何度も足を運んでくれて、その晩はいつも遅くまで語り合った。ある晩、ジェンクスは僕の建築を、”STICK STYLE TODAY”と評した。ヴィンセント・スカリー(1920-2017)による名著、”Shingle Style Today” (1974)は、19世紀のアメリカの木造住宅の歴史と、モダニズム建築との関係を解き明かした名著で、ロバート・ヴェンチューリ(1925-2018)やポストモダニズムにも大きな影響を与えたテキストである。スカリーはその中で、ヨーロッパのハーフ・ティンバー・スタイルを原型とするスティック・スタイルの線の表現から、シングル(コケラ葺き)スタイルのヴォリューム表現への変遷を整理した。ジェンクスは、僕の建築環境の中に、コンクリートによるヴォリューム表現から、木で作られた繊細な線の回帰を見出して、この絶妙なニックネームを思いついた。20世紀というヴォリュームの世紀をはさんで、2つのスティック・スタイルが存在するという歴史観に、僕は感銘を受けた。
 また別の晩には、僕に「はだしの建築家」(barefoot architect)というニックネームをつけた。「はだしの医師」というのは毛沢東時代に、地方をまわって、草の根の医療活動を行った医師たちにつけられた呼び名であるが、ジェンクスは、地元の職人たちのコラボレーションによる僕の小さな建築の中に、「はだし」の精神を見出してくれたのである。その晩の僕は、めずらしく靴下をはいていたのだが。

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

Projects鶴川女子短期大学保育士を育てる大学のために、木をふんだんに用いてやさしくて温かいキャンパスをデザインした。 「遊具のような校舎」というコンセプトを展開して、木を用いて作った様々な「遊具」、「装置」が人間と建築との間の媒介となり、空間をヒューマンなものとしている。 外壁に取り付けた西日をカットする木のルーバーもそのような「遊具」のひとつとしてデザインした。 イベントやパフォーマンスが行われる大階段の脇にはすべり台が取り付けられ、子供達から大人気である。 Read More
ProjectsFabric / Cloud上海モーターショーのためのインスタレーション。三軸織という新しい織物を用いて、折り紙のような立体的なファブリックを作り、空間の境界を、やわらかく定義した。通常の織物は、縦糸と横糸を編んで作るファブリックだが、三軸織は、3本の糸を編み込むことによって、プレスした形状を、長く保つことができる。 この特殊なファブリックを、ミウラ折りの幾何学を用いて、平行四辺形の集合体となるようにデザインした。ヒダによって発生する様々な陰影の変化にちなんで、そのファブリックを、Cloudと名づけた。 Cloudは容易にユニットに分解して運搬し、再組み立てすることが可能であり、世界のモーターショーを巡回していく。 Read More
ProjectsChamブルガリアのコンクリート型枠に用いられる最も「普通の木」がchamである。 この素朴な木で板を作り孔を開け、麻縄を使ってソフィアの建築・土木工学・測地学大学の学生たちと編み上げていった。 麻縄のテンションを生かすことで、想像以上に軽やかでやわらかなパビリオンができあがった。 パラメトリックデザインで新しい幾何学を探すことによって、ブルガリアの民家のような素朴さと、日本の格子の透明性を再生することができた。 Read More
ProjectsAEAJ Green Terrace公益法人日本アロマ環境協会の新たな拠点施設。 ヒノキの⼩径⽊(105mm×105mm)を樹⽊のような全体形状にアセンブルしたものを、ガラスの箱の中に閉じ込めた。ヒノキの香りでガラスの箱を満たし、施設全体で香りに触れる臭覚的な体験空間とした。 主構造は鉄骨であるが、部材寸法を承継僕の断面寸法に近づけ、小径木が持つ独特の繊細な粒子感に、全体を融かし込むことを試みた。 ヤジロベエ構造のテラスは、開放的なパノラマビューを持ち、丹下健三の国立代々木競技場と神宮前の森をのぞむことができる。 代々木国立競技場の男性的で視覚優位の形態とは対照的な、小さな木の粒子でできた曖昧な輪郭で臭覚的な建築をめざした。 Read More
NewsKigumi TableFor me, a table is an intensely interpersonal thing. It signifies rest, communion, nourishment, thought, and conversation. Kigumi is a 'wood cloud' that aims to elevate the table to a level of lightness, that we hope elicits surprise, while celebrating of the capacities of the material. This table is specially designed as a limited, made-to-order collaboration of detail and craft with our friends at Eins zu Eins. einszueins.design Read More
News隈研吾VR作品集 Vol. 1Vol. 1 東京大学大学院 情報学環 ダイワユビキタス学術研究館 隈研吾の代表作を最新の3DVRカメラで納めた映像作品集です。隈の手掛けた建築をその場にいるかの様に立体的に体感できる映像を、無償で全世界に発信し、特にアカデミックな教育コンテンツとして広く活用されることを目指す、世界的にも前例のない先進的な取り組みです。一作品あたり10分ほどの映像には隈研吾自身による音声解説がつきます。 協賛 大和ハウス工業株式会社、株式会社LIXIL 制作 NHKエンタープライズ YOUTUBEで見る Read More
Newsメイド・イン・トーキョー:建築と暮らし 1964/2020に模型を出展しています会期:2019年10月11日−2020年1月26日(予定) 会場ジャパン・ソサエティー、ギャラリー(333 E 47TH Street, New York, NY 10017) 開館時間 10:00-21:00 japansociety.org/made-in-tokyo Read More
NewsSmall exhibition at Tokyu hands Shibuya Scramble Square Store新しくオープンした東急ハンズ 渋谷スクランブルスクエア店にて展示を行っています。 模型、デザインした家具が展示されています。 2019年11月1日~11月末までを予定 10:00-21:00 東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア ショップ&レストラン10階 shibuya-sq.tokyu-hands.co.jp Read More