KKAA Newsletter #51 (May 3, 2024) See in English 日本語で見る

#51 November 16, 2022


 クリスチャン・ディオールのショップを訪ねる機会があった、パリのモンテーニュ通りの、ディオールのフラッグシップを案内してもらった。最も印象に残ったことは、LVMHのベルナール・アルノー会長が、そこを単なるショップとせずに、クリスチャン・ディオール(1905-1957)のアーカイブを併設したことである。ディオールが活動したのは、1947から57年わずか11年であったが、そのアーカイブではディオールの残した11年間の産物とは思えないほどのたくさんの服だけではなく、彼のデザインのプロセスをリアルに垣間みることができる。必ず、まっ白の布地で形と布の流れをチェックして、フォルムが決まった後に、実際に使う布地をあてはめていくという。建築の3Dモデリングを想起させる方法はとても興味深かった。
 
 このフラッグシップには、彼の仕事をしていたアトリエもデスクもそのまま再現されていて、アーカイブというものの重要性を、はじめて理解することができたし、ここ数年KKAAがアーカイブに力を入れていることの意味を、ディオールとアルノーから教えてもらったような気がした。
 
 このアーカイブがあるモンテーニュ通りの30番地には、今でもディオールが生き続けているのである。その彼の呼吸を感じながら、デザイナー達はデザインをし、カスタマーは、その「生きた」デザインに惹かれるのである。KKAAのアーカイブも、そのようにして生き続けて欲しい。生き続けられる。そのように勇気づけられた

Kengo Kuma © Onebeat Breakzenya

Projects石垣市役所津波の浸水域に位置していた旧石垣市役所を、高台の草原の中に移転した。草むらの中に石垣の景観を作ってきた漆喰赤瓦の屋根が重なりあった集落の風景の再生を目指した。プランニングにおいても十字路を起点として家が並び集落が成立していた石垣の集落にヒントを得て、東西軸と南北軸とのコミュニティーに開かれたストリートを起点として諸機能を配置した。このストリートが市役所内外へも拡張されて、草原に新しい街がつながっていくだろう。 漆喰で塗り固めた伝統的な瓦は、漆喰が傷みやすいという欠点があって沖縄から消えつつある。われわれは白い釉薬でひとつひとつの瓦にボーダー部を設け、伝統的な瓦と同じような赤と白のリズムを取り戻すことができた。現代の技術を用いて、伝統の風景とランドスケープを取り戻したいと考えている。 Read More
ProjectsWooden HazeシンガポールナショナルデザインセンターN*THING IS POSSIBLE展——キュレーターはPOTATO HEAD, OMA & FRIENDSでテーマはサスティナビリティ――のためのインスタレーション。木の廃材を円柱状に加工して、切り込みを入れることで、3種類の基本部材を作り、(長さ1000mm, 600mm, 360mm)それを組み合わせる操作によって、分子式(molecular formula)を想起させる、エンドレスで永遠に成長し続ける木の構造体ができあがった。 POTATO HEADはバリでの廃材利用プロジェクトのわれわれのパートナーである。 Read More
ProjectsBamboo Passage / 竹澗Bamboo Passage / 竹澗は、KKAAの中国巡回展「五感の建築」のエントランスアプローチとしてデザインされたインスタレーションである。 幅15mm、厚さ3mmの「平竹」を10,000本以上使用し、竹の反力と重さのバランスによって生み出される曲線の集合により、竹林を貫くトンネルのようなインスタレーション空間をつくりだした。 オーガニックなスペースフレーム構造とすることで、多くの来場者が通り抜けたり直接触れたりして楽しむことができるような安定性を備えた構造体が完成した。 日常と非日常をつなぐ「道」であるBamboo Passage / 竹澗は、「五感」への期待に満ちた展覧会へと一人一人の観客を迎え入れる。 Read More
ProjectsBamboo Flow / 竹曲Bamboo Flow / 竹曲は、KKAAの中国巡回展「五感の建築」のためにデザインされた茶室のインスタレーションである。人々が行き交う展覧会のパッセージとは対照的な静かな竹の茶室を設置することで、より緩急のある「庭園」らしい展示空間をつくりだした。 この茶室は、曲率の異なる幅5cmと2cmの竹材をらせん状に展開してできた立体的な竹のスクリーンで構成されている。一本一本の竹は、長さの異なる無数のアームで構成されたフォーク状のスチールプレートの端部で小さな木製ピースによって固定している。構造体に沿って無数の竹材が取り付けられ、静かな空間の中に、オーガニックな竹の素材によるランダム性のあるシルエットがつくりだす茶室が設置された。 Bamboo Flow / 竹曲は、書道や東洋楽器の音の「かすれ」のような、工業化された手法や素材では実現できない東洋の「ノイズ」の美を具現化したインスタレーションである。 Read More
ProjectsKKAA建築巡回展「五感の建築」中国国内にて開催のKKAA建築巡回展「五感の建築」。 北京にて開催された初回の展覧会は嘉德芸術中心を会場とし、その後は上海など中国国内の複数都市を巡回予定である。 デジタルネットワークの発達により視覚情報が飽和する時代だからこそ、来場者の「五感」に訴えるKKAA作品の特徴を感じてもらえるような展示を目指した。 展覧会のために制作した模型、ドローイング、原寸モックアップ、映像、インスタレーション、音楽、香り、書道などの様々なメディアを「竹の庭」の中に配置し、来場者が全ての身体感覚を通じてKKAAのさまざまな作品と触れ合うことのできる場所をつくった。 模型台は、通常のテーブル型の形態とするかわりに、斜材による組木の構造に直接展示物を載せることで、模型が庭園的な展示空間の中に浮遊するようにした。会場エントランスには、すべての来客が通過するアプローチ空間として、1万本の竹のピースを組み合わせて作られた軽やかなトンネルのようなインスタレーション「Bamboo Passage」を設置、展覧会後半部には新作の茶室「Bamboo Flow」を展示した。 様々な展示物を「五感」を通して感じ体験できるこの建築展は、コロナ禍で失われた我々の身体性を再び呼び戻してくれるような場所となった。 Read More
Projects界 由布院ヒューマンなストリートで知られる日本を代表する温泉地、由布院温泉は、昭和半ばまで田畑や牧野の広がる農村であった。この由布院の原型である里山の農村を体感することのできる、棚田状のランドスケープが主役の旅館をデザインした。既存の棚田の地形を囲むように、深い軒をもつ切妻屋根の低層ボリュームを分散配置し、さらにその周辺に、木造の離れを点在させた。低層ボリュームの北側はくぬぎ林に抱かれ、南側は朝霧の見える谷に開き、東側露天風呂の先には由布岳を望む。この圧倒的な自然のなかで、深い緑の影の色の外壁によって、分棟型のヴォリュームを森の中に消していった。 農家の空間構成である「たたき/板間/座敷」の構成にヒントを得たロビーのたたき空間には、かまど風のフロントカウンターを配置し、板間は竹皮フローリング、座敷には国東半島の七島藺(しちとうい)を使用した。座敷部分は棚田を包みこむ長い縁側空間であり、ゲストは七島藺の円座や座椅子に腰掛け、棚田の眺望を満喫することができる。 様々な家具や小物まで、可能な限り地元の素朴な素材を使ってデザインし、農家らしさをアートに昇華させようと試みた。ポストコロナ時代の「民芸」のリスタートを試みた。 施工:フジタ・新成建設特定建設工事共同企業体 デザイン監修:株式会社隈研吾建築都市設計事務所 照明:ライティング プランナーズ アソシエーツ 設備:株式会社ハルス建築環境設計 ランドスケープデザイン監修:SEA BASS Read More
Projectsアルベール・カーン美術館パリ西郊、ブローニュの森の南側に位置する美術館。 設立者アルベール・カーン(1860-1940)は、世界を旅した貿易商で、その旅先の風景を、72,000点のカラー写真と、183,000mに及ぶフィルムに記録した。そのアーカイブがコレクションの中心となっている。特に彼は日本を中心とするアジアに関心が深く、当時のアジアの生の生活の姿を伝える写真は、歴史的、民族学的価値が高い。 世界の五大陸の庭園の再現もカーンの夢で、特に日本から庭師を呼んでつくらせた日本庭園は圧巻である。 この庭園の園路の延長のリニアなシークエンスとして、展示空間はデザインされた。水平にも上下にも蛇行しながら連続する経路と外部環境の間に、アルミと木でできたスクリーンを挿入し、両者の関係はコントロールされている。庭園と展示との融合というアルベール・カーンの夢が、環境と建築の融合によって実現された。 都市側のエンベロップはアルミを主体とし、庭園側は木を主体とし、時としてそれをグラデーショナルにミックスさせた。異種の環境に対して、しなやかに適合し対話する生物的なスキンがある。 Read More
ProjectsHulic & New Ginza 8銀座中央通り沿いにたつ、耐火木造の地上12階テナントビル。 ガラスカーテンウォールの外部にはアセチル化木材でできたフィンを異なる長さと5種類の角度で配置し、季節の変化や光の向きの変化を映し出す、木の葉のようなファサードとした。 銀座には古くから柳の木が根付き、大きな幹から枝垂れる葉が心地よい木陰をもたらしているが、この木の葉のファサードも都市にやわらかい陰影と奥行きを与えてくれる。 柱梁、天井に使用した耐火木材とCLTは、特定の産地の木材を使用し、植林することで、地方と都市を繋ぐ新しい循環を生み出している。 中央通りにたつこの木の葉のビルは、アップルストアの建て替え時に仮店舗としても利用された。 デザイン監修:株式会社隈研吾建築都市設計事務所 設計施工:竹中工務店 Read More