日本 2020ふふ奈良
奈良を代表する景観のひとつである鷺池と浮見堂の南向かい、奈良公園の一角にたたずむスモールラグジュアリーホテル。
歴史を紐解くと、この地は中世から続く寺院遺構を活かして庭と茶室が作られ、大正期の文化人が交流する場であった。その根底には庭と建築を一体とみなし、自然を敬い人為を尽くして、来訪者と心を通わす「庭屋一如」の精神があった。われわれも計画地全体をひとつの庭と見立て、「庭屋一如」の精神を現代へ継承した。
春日山原生林と奈良公園をつなぐ敷地には、もともとクスノキ等の樹木群や鬱蒼とした竹林が野趣あふれる植生を形成していた。傾斜地の上側に位置する宿泊施設と下側の鷺池のほとりにある飲食施設で庭園を挟み込むことで、この森を最大限保存した。
建築は既存樹木をよけながら雁行し、高さを抑えた甍の集まりとしてデザインした。緑青に発錆した銅板と瓦の腰葺き屋根が樹林の深い緑と馴染み、軒下に吉野杉による大和張りや格子を用い、すべて墨を基調とした陰影を湛える表情とすることで、建築は竹林の背景として沈み込み、庭を引き立てている。